Limaoの中国裏事情ブログ

早稲田大学卒業、東洋大学大学院中退、2015年中国は湖北省の武漢大学に語学留学、2016年現地企業のサラリーマンを経て帰国。その後はフリーランスの日中翻訳者として東京を拠点にタイや台湾などでノマドワーカーしてます。 日本にいてはなかなか分からない中国大陸や台湾、香港などの実際のありさまをレポートします。中国語や台湾語の学習情報も更新していく予定。乞うご期待!

中国の共通語と方言について

日本では、第二外国語としての中国語の人気は高く、一時ほどの人気はなくなったかもしれませんが、いまでも書店の外国語コーナーに行くと中国語に関する書籍やテキストが韓国語と並んで数多くあり、正規の中国語以外、中国語の方言(広東語、台湾語上海語など)のテキストまで売られています(大学書林白水社のものが有名ですよね)。大学での第二外国語として選択したり、中国に留学、赴任するため勉強する日本人は多いのではないでしょうか。

ところで、日本でいう所の「中国語」は向こうでは“普通话”(pu3tong1hua4、どこでも通じる言葉の意)と呼ばれており、台湾では「国語」(guo4yu3)と言います。いわば共通語です。よくある誤解に中国語の共通語とは北京語であるというものがありますが、実は両者はまったく別物です。普通话は「北方方言を音韻のベースに、近代の著名作家の作品を語彙・文法の基礎にして作られた」人工言語です。文法の規範化、方言の語彙は排除され、全国共通で通用する語彙が採用されており、また発音も北京の方言音とは違ったものを共通語音として採用しています。そのため、標準的な中国語を学習した人にとってかえって河北省あたりの地元の人がしゃべるのは聞き取りにくいくらいです。

この共通語ですが、これから学習しようという方には水を指してしまい申し訳ないのですが、実は中国ではあまり普及していないのが現状です。中国では各地にさまざまな方言があり、方言と言ってもほとんど外国語と言ってもいいくらい互いに違っています。日本で有名(認識されている)なのは広東語、闽南語(台湾語も含まれる)、上海語客家語あたりですが、それ以外にもさまざまな方言があり、また一つの方言にも多くの下位分類があります。

私がいた湖北省武漢には武汉话(wu3han4hua4)という方言があり、これが共通語とは全然違っています。そして武漢からほんの数十キロ離れただけの街にも別の方言が存在していて、事実上中国の方言は無数といっていいほど多くあります。

一定の年齢以上の人は政治的な混乱などからまともな教育を受けられず、この共通語がしゃべれません。そういう人は漢字やローマ字もまともに書けないのが現状です(中国の識字率は年配者だと非常に低いです)。また、標準語をしゃべっているつもりでも、本人の母語(方言)と共通語の音韻的な差異が大きすぎて、訛りがあり、聞き取りにくい場合が多くあります。そのため普通话の国家試験があるくらいです。

一般に、中国では方言はマイナスイメージで取られていて、日本のように地方の文化として好意的に捉える傾向は皆無です。なので、中国人に向かって方言や訛りを指摘すると相手の教育レベルが低いことを指摘する意味になり、すごく怒られます。これには中国人が教育を非常に重視するのと関係があります。

ただ、最近の中国の大学生(一定以上の教育レベルの若者)は出身地を問わずみな似た喋り方をしており、事実上共通語として機能しつつあります。ビリビリ動画で投稿されている中国語動画の発音がそれに近いです。そもそも中国は単一民族国家ではなく、漢民族以外にもさまざまな少数民族がいて、それぞれ異なった母語をしゃべっているので、普通话は中国という小世界におけるリングアフランカの役割を果たしています。なので、少々発音が悪くてもあまり気にする人はおらず、日本人学習者特有のなまりなども一種の変異体として普通に受け入れられています。

なお、台湾の共通語である国語は大陸のものとは発音や語彙の面でかなり異なっています。香港・マカオではそもそも広東語が共通語なので大陸から来た人しか中国語を話しません。

中国語で一番重要なのは声調であり、日本人学習者にとっては正しい声調さえ身につければどこでも通じる中国語、すなわち普通话を身につけることは可能です。