Limaoの中国裏事情ブログ

早稲田大学卒業、東洋大学大学院中退、2015年中国は湖北省の武漢大学に語学留学、2016年現地企業のサラリーマンを経て帰国。その後はフリーランスの日中翻訳者として東京を拠点にタイや台湾などでノマドワーカーしてます。 日本にいてはなかなか分からない中国大陸や台湾、香港などの実際のありさまをレポートします。中国語や台湾語の学習情報も更新していく予定。乞うご期待!

いわゆる「南京大虐殺」について

中国との歴史認識おいて一番センシティブなテーマはいわゆる「南京大虐殺」についてです。中国大陸では日本の侵略が強調されており、日本軍が犯した“滔天罪行”(tao1tian1zui4xing4、とてつもなく大きな罪)として宣伝されています。

一方、日本でもこの話題については非常にセンシティブであり、90年代からの「新しい歴史教科書をつくる会」の活動やいわゆるネトウヨ本の流行、ネットでの保守・右翼的論調の隆盛により、「南京大虐殺は捏造である」という論調が日本のネットでは主流です。そんな中、最近ではノーベル文学賞の候補にも目せられる作家の村上春樹が小説「騎士団殺し」の中で南京大虐殺に触れたことで話題となりました。

一つ指摘しておきたいのは、この主題が中国側との国際的な論争に発展することはほとんどなく、主に日本国内における左右の生産性が低い「魔女狩り」的な罵り合いの論点になってしまっているということです。

感情的な罵り合いや際限ない泥仕合に発展しないため、以下あくまで私個人の見解を述べるに止めますが、私は最近のネットでのこれに関する論調はやや行き過ぎていると思います。南京大虐殺についてデマであると考えている人でも、日本がかつて中国を侵略した事実自体を否定する人はいないと思います(それに対する解釈はどうあれ)。当時の兵士の記した日誌やメモなどからも、日本軍兵士が中国人に非常に強い敵愾心を抱いており、各地で女性への強姦や国際法に反する捕虜への殺害を行っていたことは明らかになっています。また、日本軍には捕虜を取るという発想がなく、そのための食料や日用品などの備蓄もほとんどありませんでした。このような状況下で当時の中華民国首都南京を攻略した際発生したとされるのがいわゆる「南京大虐殺」です。これに対し90年代からいわゆる自由主義史観を標榜する論者によって「30万人の犠牲者は多すぎる」など、重箱の隅をつつくような論争がしかけられ、論旨は次第に「南京大虐殺まぼろし論」へと流れていきました。現在では、南京大虐殺を事実だと発言するだけでネット上でまるで売国奴、非国民であるかのように多くのネットユーザーから罵倒されるという事態に至っています。これは明らかに行き過ぎではないでしょうか。

もちろん中国側の主張が過激な反日感情を煽るものであり、それには現代における政治的な意図もあるものと考えられますが、仮に南京大虐殺がなかったとしても、日本が8年間もの長期に渡って中国を侵略し、国土を破壊し、その間多くの一般人を殺害し、女性を陵辱するなど、莫大な被害を与えたのは事実です。南京大虐殺の有無だけで日本が他国に土足で踏み込み荒らし回った事実をすべて正当化するのは到底不可能だと思います。事実を客観的に捉えることだけで「反日」として罵られるのなら、日本国内で歴史に関する冷静な議論や評価は全くできなってしまいます。これは非常に危険な徴候です。

今、中国人との間で必要なのは過去をすべてありのままに受け入れた上で友好な協力関係を築くことであり、過去を受け入れた上で今の日本を誇りに思うことです。過去の歴史事実の受容や評価は左右の政治勢力の政争の具であってはならないと思います。と、同時に如何にすれば中国人の反日感情を高めず、お互い前向きな関係を築いていけるかが問われています。過去に政府が誤った政策を行ったというだけで否定されるほど日本の伝統や文化の価値は低くないと思うのですが、日中で過去の歴史認識について冷静に議論することはできないものでしょうか。