Limaoの中国裏事情ブログ

早稲田大学卒業、東洋大学大学院中退、2015年中国は湖北省の武漢大学に語学留学、2016年現地企業のサラリーマンを経て帰国。その後はフリーランスの日中翻訳者として東京を拠点にタイや台湾などでノマドワーカーしてます。 日本にいてはなかなか分からない中国大陸や台湾、香港などの実際のありさまをレポートします。中国語や台湾語の学習情報も更新していく予定。乞うご期待!

中国に「ニート」や「ひきこもり」、生活保護者はいるか?

日本では「ひきこもり」という言葉が定着してもう随分経ちます。当初は「ニート」「働いたら負け」などの冗談めかした言い方も存在しましたが、長く続く不景気や「80・50問題」、イジメなどで心理的な傷を負い外に出られないまま高齢化していくひきこもりの深刻な現状、日本全国でそういった方がたが推計60万人いるという現実をまえに、ネタとして扱う余裕は今の日本にはないと言えます。

では、中国では事情はどうなのでしょうか?

中国で最近よく話題にされている流行語に躺平tang3ping2というものがあります。これはひきこもりとはだいぶ意味が違うのですが、イメージ的にはよく似ています。

「激しい競争社会に疲れて、競争から脱落する。向上心を一切捨て、現状に甘んじて生きる」というほどの意味です。

現状、中国は事実上世界で最大かつ最も熾烈な競争社会であり、多くの人が少しでも豊かな生活を送ろうと必死になっていることは、前回「内巻」という言葉を紹介したときに説明しましたが、中には薄給に甘んじてもいいし、生涯独身でもいいからこんな疲れる競争は嫌だという若者もいます。中国は率直に言って(局地的に見ると)まだまだ貧しい国であり、地方や農村に行くほど貧困が表面に出てきますが、その現実を受入れ「横たわる」という意味です。

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躺平

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家里蹲

一方で、家から外に出ないで暮らすことを中国語で家里蹲jia1li3dun1といい、これは日本語のニートに近い意味です。いわば「働いたら負け」ですね。家から外に出ないで日本のアニメやゲームに夢中になる若者ですが、これは「宅男」(オタク、日本文化愛好者)に近い意味です。遊んで暮らせる比較的精神的に余裕がある人達を指します。

では、中国の学校などでひきこもりにつながるイジメ行為が全く無いかといえばそうでもなく、校园暴力xiao4yuan3bao4li4という言葉で代表される校内暴力は盛んにあります。

ただ、日本と違うのは喧嘩の強い不良がイジメのリーダー役になるのではなく、むしろ成績の良い優等生がイジメの主導者になるということです。中国は学問を重んじる国であり、成績がいい学生すなわち学霸xue2ba4は異性からもモテるし、クラスの中で一目置かれる存在です。

中国のスクールカーストは基本的に成績順に構成されており、優等生は先生もえこひいきして少々羽目を外しても見逃す傾向があるので、そういう優等生が成績の劣り性格的にもいじめられやすい学生に直接的・肉体的な暴力を加えるというのが中国式のイジメです。さすがに、学校のランクによって事情は異なり、成績の劣悪な学校ほどこれとは違う形式になりますが、基本的に中国にはヤンキー文化がなく、ただ犯罪者(流氓liu2mang2)がいるだけです。

中国人の学者崇拝を表す冗談に“流氓其实不可怕,就怕流氓有文化”(チンピラは怖くないが、怖いのは学問のあるチンピラだ)というものがあるくらいです。

そもそも、中国の学校ではイジメに対しては「徹底的に反撃しろ」と教育する傾向があり、イジメと言っても日本のように集団でひとりをネチネチいたぶるのではなく、一対一になりやすく、また父母も黙っていないので、日本のように被害者が泣き寝入りして保健室登校などは考えにくい状況です。

わたしが中国人に日本人のひきこもり現象について説明したところ、理解されず「修仙」(仙人なる修行)でもしているのかと笑われました。もう少し真面目な回答を求めたところ、自闭zi4bi4(心理的外傷から自分の殻に閉じこもる)という言葉がふさわしいのではないかと言われました。

中国は家族や友人関係が親密で、親戚の中に心理的問題を抱えた子供がいれば一族総出で手助けするという風習が強く、また経済的にも無業で何十年もいるものを養う余裕がある家庭は多くありません。また、(こういうと非常に失礼ですが)中国人の仕事ぶりは完璧主義者の日本人の目から見るとかなり適当かついい加減であり、新卒採用という概念もないので、あまり仕事さえ選り好みしなければ仮にひきこもってもすぐ社会復帰はできます。

また、中国人は基本的に見ず知らずの相手にも率直かつフレンドリーな一面があり、なにかのきっかけさえあればすぐ友達の輪が広がるので、社会から孤立するという状況は考えにくいです(わたしはスーパーでたまたま横にすわってたおばちゃんと30分くらい雑談になり、即WeChat登録の上、翌日には日本製品の代理購入を頼まれました)。

なお、生活保護については低保户di1bao4hu4という似たような制度があることはあるのですが、非常にもらえる金額がすくないため、多くの人たちは生き残るため文字通り命がけの生存競争に没頭しています。

そもそも、ひきこもりという現象自体、日本社会に特有な感じがします。例えば英語圏などでも該当する訳語がなく、精神病の一種に扱われるそうです。日本社会は一見するとマナーが良く礼儀正しい人が多いようですが、なかなか本音を言える場所がなく、居酒屋、カラオケ、キャバクラなどをはけ口にするか、それができない人が心療内科やカウンセラーに頼る傾向です。日本人はどうしてもっと自分の家族や友達に親身にならないのか多くの中国人は不思議に思っています。