Limaoの中国裏事情ブログ

早稲田大学卒業、東洋大学大学院中退、2015年中国は湖北省の武漢大学に語学留学、2016年現地企業のサラリーマンを経て帰国。その後はフリーランスの日中翻訳者として東京を拠点にタイや台湾などでノマドワーカーしてます。 日本にいてはなかなか分からない中国大陸や台湾、香港などの実際のありさまをレポートします。中国語や台湾語の学習情報も更新していく予定。乞うご期待!

中国はガチで日本を侵略してくるのか?――中国文明試論

中国は日本に攻めてくるのか?

 

人民解放軍

 

今日は日本人の皆さんに、中国は本当に日本に攻めてくるのかについて、自分の考えを述べさせていただきます。

最近、日本では中国の軍事的脅威がさかんに騒がれています。マスコミでも「海洋進出を強める中国」とか「力による現状変更」とかのパワーワードが枕ことばにされているので、中国ってヤバい国なんじゃないのかってよくわかんないけどそう思ってる日本人の方が多いと思います。これについて、まず中国とはなにかということについて、先にご説明します。

 

まずひとつに中国は文明だということです。日本でも古代から中世、現代まで歴史があって、大和朝廷とか、鎌倉幕府とか、戦前の日本とか、いろいろあったと思います。

日本人の方も自分は日本人だと思ってますが、それは現代の日本国の国民だという意味ですよね。たまに戦前の大日本帝国帰属意識をもってる方がいらっしゃいますけど、それでも明治以来150年程度の歴史です。自分は鎌倉幕府御家人だと思っている日本人の方は恐らくいないと思います。中国もそれと同じで、4000年の歴史があると言いますが、それは中華文明の方であって、今の中華人民共和国のことではないです。これは区別する必要があります。

 

漢字文化圏

 

これは個人的意見ですが、わたしは日本は中国の一部分だと思っています。でも誤解がないように言うと、さっき述べた中華文明の方の一部分です。それは我々日本人がいまだに中華文明の影響下に置かれているからです。漢字もそうだし、日本の文化はさまざまな面で中国文化の影響を受けています。日本の伝統の和服だって、中国古代の民族衣装にそっくりです。なので広い意味で中華文明の一部あるいは派生形だと言えます。

文化的影響だけではなく、歴史をみても日本は政治的に中国の一部分だったことがあります。

 

まず倭の五王ですね。今から1500年ほど前の中国南朝の宋の正史『宋書』に倭国の王として、讃・珍・済・興・武の名前が上がっています。日本の学者は倭王武雄略天皇のことではないかと考えています。ありていに言えば、日本の天皇は古代中国の臣下でした。これらの倭の五王は中国に朝貢、つまり臣下として使節を送っているからです。

これは何も古代だけではありません。今から600年ほど前の室町幕府足利義満は、日本国准三后と称して中国の明に朝貢し、成祖永楽帝から日本国王に封じられています。名目上のことではないかと言う人もいるかもしれませんが、すくなくとも名目上は日本の主権者が中国皇帝の臣下だったわけです。

 

ところで、わたしは支配にはハードな支配とソフトな支配があると考えています。相手の国を力づくで征服して、なにもかも無理やりかえてしまう。人も殺す。これがハードな支配です。昔日本が中国を侵略したやり方はハードな支配です。だからこれだけ恨まれています。これに対して文化的な仕方や間接的な方法で支配するやり方もあります。これを自分はソフトな支配だと呼んでいます。アメリカが日本にやっているのもソフトな支配だと思います。一般にハードな支配は抵抗が強く、恨みを残しますが、ソフトな支配の場合、その国の人々が満足している限り大きな抵抗は起こりません。中国は長い歴史を通して周辺の国におおむねソフトな支配を行ってきました。さっきの倭の五王もそうです。

 

もう一つ、はっきり述べておかなければならないのは、中国とは抽象概念であって、特定の民族ではないということです。これは文明としての中国です。日本語では現代の中華人民共和国も、文明としてのchinaも両方中国と呼ぶので混乱を招きやすいのですが、中国とはもともと世界の中心という意味です。これは古代の漢民族が自分たちの創造した文化を世界の中心の優れた文明と考えたことによります。これを中華と言います。ラーメンのことじゃないです。その後漢民族の住む地域には北方のモンゴル高原から遊牧民族が侵攻してきましたが、基本的に彼らはこの文明・文化を受け入れました。またこの文明・文化は南方のさまざまな少数民族、これを百越と言います、にも受けいれられてきました。

 

なので、漢民族の創造し、その後さまざまな民族が参加して創造的に発展させてきた文明・文化を中国と呼び、これは特定の民族とは関係ないのです。今の国としての中国には56の民族が存在し、この構造は今も変わりません。ただややこしいことに、今の中華人民共和国で最も影響力のある民族が漢民族であり、漢民族ナショナリズムとも関係があるからこれが混同されやすいのです。

 

極端な話、儒教や漢字など中国の伝統的な学問を修め、自分が中国人だと思えばアメリカの黒人でも中国人になれます。

実際に江戸時代の著名な漢学者荻生徂徠は自分が中国人だと考え、物徂徠と名のり、漢文の研究をするだけではなく、長崎に行って居留の華人から中国語の会話まで習いました。これは極端な例かもしれませんが、中国文明の影響を受けているという面で、すべての日本人がある意味中国人なのです。

なので、筆者も自分は精神中国人だと思っています。

 

では、これが戦争の話と何が関係するかについてお話します。

さっき述べた文明の概念は中国にとって外国と自国領土の区別が難しいという話です。中国文明の影響を受けた地域は国内と考えあくまで内戦と考えることも、外国の民族との戦争と考えることもできます。文明的にベトナムとか朝鮮とかはグレーゾーンですね。

しかし、中国の歴史を通してはっきりと外国との戦争を行ったことが二度あります。ハードな支配です。

それは古代の匈奴との戦争と清朝乾隆帝のいわゆる十全武功です。

匈奴はトルコ系ともモンゴル系とも言われる遊牧民族で、当時の中国の漢帝国と死闘を演じました。当初は匈奴が圧倒的に優勢で、漢の高祖が匈奴に屈服したほどです。清朝は100年前まで存在した最後の王朝ですがその最盛期の乾隆帝の時代、大規模な対外遠征を繰り返しました。たとえばネパールのグルカやベトナムに侵攻しています。では、中国は外国を侵略したかというと、これは難しい問題です。

 

ひとつは、帝国という概念があります。帝国とはさまざまな民族から構成される国家です。通常帝国には共通言語と共通の法律があり、民族や宗教によって差別されないという構造があります。例えばローマ帝国イスラム帝国などで、ローマ帝国ではラテン語が共通語であり、ローマ法がありました。イスラム帝国ではコーランアラビア語が共通語であり、シャリーアつまりイスラム法がありました。現代のアメリカも一種の帝国ですね。

同じように中国はいわゆる漢文、中国ではこれを文言文と呼んでいます、を共通語にし、儒教科挙などを通して統一国家を作っていました。先程のべた中華とその外の外国、これを伝統的に中国では夷狄と呼んでいますが、その区別が曖昧なのです。

 

アヘン戦争

中国にとって三つ目の外国との戦争があります。それはアヘン戦争です。これによって中国は近代を迎えたとされています。今までの曖昧な中華や帝国の概念を捨て、ある範囲の中国を切り取って近代的なネーションステートにするという動きが起きました。現代中国のさまざまな民族問題はこれに起因します。

なので、これから戦争が起こるかどうかは、この中華というシステムが上手く機能するかどうか次第だと思います。中国国内の人権問題や民族問題も、民主主義の問題というより一度捨て去った中華を機能不全のまま使い続けていることから起きているのです。中華という文明が影響力を保ち続ければ対外戦争は必要がないし、むしろ日本が中国の一部に加わってもいいはずです。いわゆるソフトな支配です。本来一帯一路などはそのような大きな志のあるプロジェクトだったと思います。それには中国の国民が他国から尊敬されることが前提です。とくに、もともと文化的に近い周辺諸国との関係です。

 

最後にハードな支配が起こるかどうか、つまり現代の中華人民共和国の軍事戦略について述べると、まず現代では核兵器の相互抑止力があるので、全面的な戦争に発展する可能性は低いと考えます。台湾海峡など局地的な紛争が起きてもそれが全面戦争につながるリスクは小さいと思います。また中国政府は「有史以来外国を侵略したことがない」と称しているし、自国民にもそう宣伝しているので、対外戦争をやるにはよほどの大義名分が必要です。結論を言うと、中国に日本を侵略する意図があるとしても、実行は難しいでしょう。ただし、日本のシーレーンを脅かして日本をコントロール下に置くことはできるかもしれません。

ではどうすればいいかというと日本と中国がソフトな形でひとつの国になれば問題はすべて解決すると思います。日本と中国の国境を取り払い、日中がひとつの国になるのです。これが私の持論です。そうすることによってのみ、近代のキリスト教グローバル資本主義国民国家という欧米が作った近代の世界体制を克服することができると考えます。

 

以上、皆さんここまで読んでいただきありがとうございました。